CALS/ECの目的はもう達成できたのだろうか。特に電子納品については、電子化の意味を見出すところにまで、はたしてたどり着いているのだろうか。2010年には全市町村で導入され利活用されるというのが国交省の描いていた絵ではなかったか。
 

自分の身の回りの市町村を見回してみても実際の運用が始まっている自治体はほんの一握りだ。
 

真剣に導入した都道府県での実態はどうか。CALS/ECの資格であるRCEやRCIの取得者を評価しながらも電子納品は導入しないと宣言している自治体もあるそうだ。激しく矛盾したことをやっているとは全然認識できていないのだから恐れ入る。
 

今に始まったことではないが目的がねじ曲がった方向に向いてはいるように思うのである。最近の状況をみていると、CALS/ECについてはどうやら根本的に見直す時期に来ているとしか思えないのだ。

はたして、こうなってしまった責任は一体どこにあるのだろうか。自分の考えではあるが原因は3つくらいに分かれると思っている。
 

一つ目は一部の建設業向けのソフトウエア業界が欲を出し過ぎたのではないかということ、二つ目は土木施工会社に高度な電子成果品を求めすぎたこと、そして3つ目は発注官庁側の無理解だ。特に3つめの発注者側の無理解はいつまで待っても直ることが無かった。なにしろ2年ごとに転勤で担当が変わるので、真剣に覚えようとはしていないのではないかと思うことさえあった。
 

今では、官民の癒着などはありえない時代になってきたのだから、転勤のスパンをもっと長くしてもいいのではないだろうか。職員の転勤には毎年かなりの税金が使われてから、その削減にもなる一石二鳥のアイディアだと思うがいかがだろう。
 

また、我々ソフトウエア業も果たして適切な価格でのビジネスをやってきたのだろうか。
 

私の手がけてきた写真管理ソフトや電子納品支援ツールなどは、普及の段階になった時点でかなり安価にはなってきたが、自分の中ではもっともっと安くしたいと思っていたのだ。
 

市町村工事でも電子化が進むのであれば、全国で55万社あると言われる巨大な市場が誕生するからだ。ところが現状では、全国でせいぜい2万社程度の建設会社に電子納品の必要性が生れた程度に留まっているだろう。その結果2万社の顧客を数十社あるといわれるソフト会社が奪い合う構図になってしまったのだ。
 

その中でも特にCADソフトに関してはとても可愛そうだ。OCFが音頭をとって大々的に普及させようとして企画したSXF。難しいOCF検定をパスしなければならず、どこのCADベンダーも莫大な開発費を掛けて対応したののだろう。で、ライバルはグローバルスタンダードである巨大なAUTODESK社。
 

このままでは国産CADは全滅してしまう。おそらくそういう恐ろしさがあったのだろう。みなで団結して対抗しようとしたわけだ。そうして作られたのがSXFであり、OCFなのだ。
 

更にフォーマットだけではダメで、線種や色、レイヤーまでもすべて決めておくと、自動積算も可能になるということで、CAD製図基準(案)が誕生した。
 

そうして、細かいところまで決めてしまったので作図にエライ手間が掛ることになってしまった。忙しい現場の代理人はそこまでのことを対応するのがなかなか難しくなってしまったし、チェック機能や自動変換機能といった、本来のCADの性能とは全く違う部分で評価がされてしまうようになってしまった。
 

無論そんなCADが大量に出回るのであれば、ビジネスとしても大成功だっただろう。
 

ところが、実際の現場ではほとんどの現場代理人が自ら図面を描くことが出来なくなってしまったのだ。あまりにもルールが細かすぎて、本来の施工を行いながら図面を作成するためには、ずっと現場事務所に籠って図面を描く技術担当を置かねば対応するのが困難になってしまったからだ。
 

人を増やせばと当然工事の利益率が落ちてしまう。なので、新ビジネスとして生れてきたのがいわゆる電子納品支援業者である。実際に今では完成図面についてはほとんどの現場で外注化して対応しているのではないだろうか。
 

技術が売りのはずの建設会社だ。本来は自分の会社が施工した図面は自分で描かなければならないのに、こうして今ではすべて外注に書いてもらうという本末転倒の状況になってしまったのである。
 

中には外注に描かせて発注者へ納品した完成図面データを自ら開くことすらできない建設業者が存在するのだ。なので、当然CADはなかなか売れないのである。
 

結果的には、CADを購入して一生懸命に使っているのは電子納品支援業者だけとなってしまった。実際の建設業者はSXF対応CADを数ライセンスだけ持っていれば事足りる。
 

ということは、CALSの導入によってCADベンダーの経営を厳しくし、更に建設会社の図面作成レベルを引き下げてしまったとは言えないのだろうか。
 

さらに、発注者側の対応がとても遅く、CALSを推進しなくてはならない立場の発注官庁からは今になってもAutoCADの図面が提供されてくるような始末だ。しかもいざ蓋をあけてみると、SXFよりもAutoCADのデータのほうが軽くて便利だったとみな気がついてしまったという。大々的に謳っていた自動積算という未来像は一体どこに行ってしまったのか。
 

あげくのはてには発注者側が違法コピー版を使ってまでしてAutoCADに固執していたという某自治体が有ったのだから、もう何をかいわんやである。
 

やはりCALSはもう終わったのかもしれない。なんだか10年に亘って壮大な茶番を見てきたかのようだ。

で次はどうするだろうか。ICT利用による情報化施工の普及が次の狙いだとは思うが、電子納品よりも数段高度である。電子納品ですら上手くいかなかったのに、そう簡単にはいくまい。
 

はたして普及するのかどうか、これからも勉強するとともに見守っていこうと思う。